自然と人間のかかわりの深淵へ 狂っているのは 世界か、人類か

INTRODUCTION

圧倒的な映像と音響の奔流 もはや 黙示録の体験である

ニューベッドフォード――かつて世界の捕鯨の中心であり、文豪ハーマン・メルヴィルの『白鯨』をインスパイアしたあの港町から、我々は巨大な底引網漁船アテーナ号とともに絶海へむかう。危険で過酷な漁は数週間にわたり、船は漆黒の海を航く。そこでは昼と夜、美と恐怖、生と死とが不気味に溶けあい、やがて我々の時空の感覚を狂わせていく。
監督のルーシァン・キャステーヌ=テイラーとヴェレナ・パラヴェルは映像作家であり、ハーバード大学「感覚民族誌学研究所」の人類学者でもある。二人はこれまで誰も試みたことのないやりかたで人間、海、機械装置、海洋生物といった現代商業漁業にかかわるすべてを鮮烈に、生々しく活写していく。カメラは網の中でもがく魚たちや、上空を飛び交うカモメの目線となり、虚空を舞い、海中へとダイブする。泡立つ波音、クレーンの軋み、波に揉まれた船体があげるうめき。圧倒的な映像と音響の奔流。『リヴァイアサン』は、そのに我々を放りこむ。もはやこれは黙示録の体験である。

ハーバード大学「感覚民族誌学研究所」Sensory Ethnography Lab

美学と民族誌学との革新的な連携を推進する実験的なラボ。本作のルーシァン・キャステーヌ=テイラーがデイレクターをつとめる。アナログとデジタル両方のメディアをつかった創造的な探求の成果として、『Sweetgrass』(2009年ベルリン国際映画祭)、『Foreign Parts』(2010年ロカルノ国際映画祭)、『MANAKAMANA』(2013年ロカルノ国際映画祭)といった刺激的な映像作品を生み出している。
ハーバード大学「感覚民族誌学研究所」とは?

マサチューセッツ州ニューベッドフォード

ボストンから南へ車で1時間ほどの都市。東には1620年にメイフラワー号が到着したケープコッドがある。捕鯨は18世紀中頃に始まり、19世紀に最盛期を迎える。主に灯火燃料や工業油にする鯨油をとるためだった。港は世界最大の捕鯨基地として賑わった。1843年、アメリカの捕鯨船に救出されたジョン万次郎が初めてアメリカの土を踏んだのもこの地だ。捕鯨の終焉をむかえた現在でも毎月500隻以上が出航する全米有数の漁港であり続けている。

リヴァイアサン